人生の先輩のはなし

アナウンサー福居万里子の本音

アナウンサー 福居 万里子

アナウンサー 福居 万里子

Life Story

インターンシップで番組づくりのおもしろさに開眼

私はアナウンサーですが、どちらかといえば報道記者的要素が大きく、ほぼ毎日取材に出かけ、見たり得たりした情報を1~2分の原稿にまとめ、映像を編集してオンエアに臨みます。空いた時間は翌日の取材準備や原稿・映像をチェックしており、今日のニュースをつくりながら明日のニュースの準備を行うという毎日です。報道業務以外では、テレビやラジオの定時ニュース原稿を読むほか、CMや番組ナレー ションを担当することもあります。
なぜアナウンサーを目指したかといえば、幼い頃からテレビを見るのが好きで、漠然とテレビに出る仕事がしたいとは思っていました。しかし、それはあくまでも夢。高校生の頃はみんなと同じように進学して就職し「平均的な人生」を歩むものだと思っていたのです。ところが大学受験を控えていた時、 大ファンだったダイエーホークス(当時)の日本一祝勝会の様子をテレビで見ていたら、取材している アナウンサーがうらやましくなり、父が何を根拠に言ったのか、そして私も何故それを信じたのかは不明ですが、「九州大学ぐらい行けばチャレンジできるかも」と言ってくれました。そして大学2年の時、インターンシップでインターネットの映像コンテンツ制作会社で取材・撮影、カメラ前で喋るなどを経験。番組作りのおもしろさに引き込まれ、アナウンサーを目指そうと思いました。

テレビ・ラジオだけでなく分野を超えた仕事にも挑戦したい

実際にアナウンサーになってみると、取材した方が放送をよろんでくださることがよくあり、やりがいを感じるようになりました。以前は「楽しければそれでよし」という考えでした。だから、高校時代は各種委員会や応援団などに積極的に参加して文化祭や体育祭を楽しみました。それはそれでよかったのですが、社会人になるとやはり「やりがい」や「張り」が欲しくなります。そこで、もっといろいろなことに挑戦したいと思い、同業種で4回転職しました。ただ、それは「楽な道」を求めてではなく、「楽しいと思える道」を選ぶことを大事にしてのことです。
これからはテレビ・ラジオのほか、チャンスがあれば分野を超えた仕事にも挑戦し、経験を積むことで後輩から頼られる存在になりたいと思います。私生活では子どもを産み、家庭をもつのが夢です。母親になると世の中が違った視点で見えてくるといいます。夕方のニュース番組は多くの母親が見てくださっていますから、ママ目線でニュースを伝えることはとても大切だし、それこそ母親のみなさんによろこんでもらえると思うのです。

interview

報道番組におけるアナウンサーの仕事

まず、前提として、アナウンサーも報道記者のひとりです。 県内で起こる出来事に対し、記者とカメラマンがチームを組み、取材に出向きます。
「県内で起こる出来事」とは、たとえば・・・
「○月○日から新しい商業施設がオープンする」
「□月□日の●時から市長の定例会見」
「△月中旬ごろから ××× の収穫がピークを迎える」などです。
これらのおおよそのスケジュールを放送局は把握していて、前日までに「明日のニュースのラインナップ」を決め、それに対して記者とカメラマンを配置します。
取材=記者は原稿を書く、カメラマンは撮影する、ですが、時には「記者(カメラマン)自ら体験して感想を述べる」「そこにいる人にインタビューする」などその話題に応じた演出もします。
“食リポ”などが分かりやすく、代表的な演出でしょうか。
ハッピーな話題ならそれらしく、ややこしく難しい話題なら噛み砕いて分かりやすく・・・
そこに、世の中の動きと比較できる部分がないか、自分なりの視点を加えられないか、などひとりひとりが担当する原稿に責任を持ち、「より良いニュース」を目指します。
たった1~2分のニュースでも、原稿を書く・撮影するというのは、自分たちで言うのもなんですが、結構ムズカシイことなのです。
そして、これがいわゆる「お昼のニュース」で放送するとなると、時間との勝負にもなります。
取材開始から1~2時間後にはOAが迫っているのです。(その間に取材→原稿作成→デスクが原稿をチェック→編集・テロップ作成をしなければ!) ですから、前日に取材配置が決まり次第、あらかじめ情報を集め、電話で取材し、こんなインタビューをしようかな、と考えて「予定原稿」を書いておくこともあります。ニュースの下書きのようなものです。
今日のニュースをつくりながら、明日のニュースの準備も同時に行う・・・記者たちがバタバタと駆け回っている姿を想像していただけるでしょうか。
ただし、突発的な事件や事故が起きた場合には、放送の優先順位が入れ替わることがあります。
取材はしたけれど、お蔵入り、放送日を延期・・・などは、こうしたことが起きるためです。
どんなスキルが必要か、と聞かれたら、私はこう答えます。
「目の前の出来事を日本語で伝えるスキル」
もう少し、詳しく説明するなら、
「視聴者が興味をもち、理解できるよう、目の前で起きている出来事を正しく捉え、分かりやすい映像と日本語で表現するスキル」です。
どうでしょう、すごくシンプルで、それでいて案外難しいかも、と思いませんか。
私の場合は新人時代から原稿を書く、映像を編集するという一連の流れは経験してきましたが、年々ひとつひとつの作業スピードが速くなり、かつ、複数の視点で物事を見るようになってきたように感じます。
ただ、あるニュースに対してコメンテーターがいろんな意見を言ってみたり、視聴者の反応も様々だったりすることを考えれば、ニュース原稿における“100点満点”はなく、ずっとずっと試行錯誤が続くのだと思います。
実際に、私も、周りの記者も、その日のニュースの放送を終えたあと、「他の局はどんな表現で伝えたかな?」「どの映像を使ったかな?」と各局の放送を気にしていて、「なるほど~、そうきたか」というような会話をいつもしています。
ここまでは「記者」としてのお話で、私の場合は取材から帰ってきたあと「キャスター」としての準備も始まります。
番組では、1日に10本前後のニュースを伝えます。

ある一日の業務スケジュール

09:00 出社・取材へ出発
※取材内容によって時間は異なる。
09:30 取材開始
※現場で原稿を作成。
11:00 局に戻りカメラマンと映像を編集
※局に戻るまでにデスクが原稿をチェックする。
11:50 ニュース OA
※このニュースは別のアナウンサーが担当しているため、福居さんはOAを見守る。
12:00 当日の夕方のニュースについて、デスクや技術チームと打ち合わせ
12:30 昼食
昼食後は、再び取材に出ることもあれば、フリーの時間になることもあります。フリーの時間では、次の日の取材準備やニュースの企画にするネタ探しをすることが多いです。報道以外の仕事(CMや番組のナレーション収録)をすることもあります。
16:00 ニュース原稿や映像をチェック①
※この段階ではほとんどの原稿は未完成。
16:30 着替え・ヘアメイク
17:00 ニュース原稿や映像をチェック②
※徐々に映像が完成しはじめる。
18:00 すべての原稿がそろう
18:10 スタジオ入り
18:15 番組OA
19:00 反省会
特集企画などを抱えている場合は番組OAの後、残って原稿を書くことがあります。
原稿に目を通し、読めない漢字はないか、日本語として正しいか、アクセントはどうなるかを確認して、声に出して読んでみます。
理解しにくい表現があれば、きっと視聴者も同じで分かりづらいのでは、と考えを巡らせ、柔らかい表現に変えることもあります。
映像に合わせて原稿を読んでみて、タイミングをはかったり、テンションを変えてみたり・・・アナウンサーの読み方ひとつで、ニュースの雰囲気もガラッと変わるものです。
それから、ニュースに対しての自分の考えを話す機会もあるので、知識と心を整理しておくのも必要な準備です。
ここまで、さも何でもできる一人前のニュースキャスターのように語っていますが、私だって、今でも原稿を添削され、発音アクセントの間違いを指摘され、周りの記者にニュースの詳細を説明してもらい、「へぇ〜!このニュースってそういう背景があるのか!」・・・と学びながらの毎日です。
これを上司や同僚に読まれたら・・・正直、恥ずかしいです。
「福居こそできてないだろ!」と言われそうです。
記者としての説明が長かったわりに、キャスターとしての説明はこれだけ!?と思われるかもしれませんが、そうなんです。
私がキャスターとして画面にでている時間なんて、1日の終わり、ほんの1時間足らずで、それまでの方が長いのです。
けれど、みんなが取材したものを言葉で表現し、視聴者と共有する、とても責任のある仕事であることに違いありません。

アナウンサーの仕事は、下記の視点から見ると、どういう仕事ですか?

お金

お答えするのが難しいですね・・・放送局によって変わります、 としか言えません。
それから「放送局のアナウンサー」「契約アナウンサー」「フリーアナウンサー」など働き方によっても異なります。
ただ、「テレビに出ている=華やかな仕事」だから「高収入!」とも限らないことは確かです。
一方で、アナウンス技術の向上なり、知識を深めるなり、頑張れば頑張っただけ仕事の幅が広がる、それが収入にもつながるかもしれませんよ。(・・・局アナの場合、月収で働くサラリーマンなので一概にそうとも言えませんが)

名声

「アナウンサーってことは、テレビに出てるの?すごーい!」こうしたことを言われたことが何度かあります。
事実、私も学生のころ、そんな目で見ていました。
けれど、画面に出ることは貴重な体験ではありますが、決して「私自身がすごい」わけではないのです。
だからといって、「そんなぁ、たいしたことないよ」という気もありません。
テレビやラジオなど、放送の影響力は大きい、それを信じて私たちは放送に挑んでいるからです。
画面を通して、信じられないくらい多くの人たち(視聴者)に顔を覚えていただいていることは、かけがえのないことですが、「名声」という表現はそぐわない気がします。

時間

忙しい・不規則・深夜まで・・・そんなイメージでしょうか。
東京などの大きな放送局のことは分かりませんが、私たちは普通に人間生活を送れています。
それは、放送局がみなさんの生活や活動に密着するものだからかもしれません。
取材対象がいなければ取材はできません。世の中の多くのモノやコトは朝から夕方にかけて動きますよね?
それなら、私たちも同じ時間帯にしか取材できません。そういうことです。
深夜まで残り、頭を抱えながら原稿を書く、編集する、そんなこともありますが、それが日常ではありません。

家族

カレンダー通りの生活ではないため、家族や友人と休みが合わず、淋しい・・・と感じているアナウンサーは少なくないと想像します。
けれど、必要な休みはきちんとあります。土日だって休むときは休みます。
アナウンサーは視聴者と同じ目線も求められます。みなさんと同じように家族との時間を大切にし、守るものがある、そういう感覚を忘れないことも重要だと私は思います。
それよりも、子どもがいる先輩アナウンサーが「子どもがね、ニュースを見て、パパだ!って指差すよ」と嬉しそうにしているのを見ると、“頑張っている姿を家族に見てもらえるなんてステキな仕事だよなぁ”と、つくづく思います。
私自身も、番組を見た祖母が「見たよ」と連絡をくれることが嬉しくもあり、おばあちゃん孝行かな、と感じています。

出会い

私は、出会いとは、人と人、の話だけではないと思っています。
「テレビで昨日やってたんだけど、●●●って×××なんだって!」
こうした会話をすることがありますよね。
テレビやラジオを視聴することによって、様々な新しい情報との出会いがあります。
私たちは、取材でいろんな人に出会います。番組のなかで、いろんな文化や情報に出会います。
放送局に勤めているのだから、それだけたくさんの出会いが周りに溢れています。

探求

いやらしい言い方ですが、私たちは取材(仕事)と称して、気になるモノや場所、人に会いに行っているのです。
もちろんすべてではありませんが、取材とはそういうものだと思い、楽しんでやっています。
逆に、興味のなかったものでも、取材してみると意味が分かり、より深く調べてみたくなった・・・ということもあります。
それから、放送に“100点満点”はない、と私は思います。
どんなベテランアナウンサーも「ここはもう少しこういう表現でもよかったかな」と放送を振り返るように、試行錯誤がつづく職業です。

社会貢献

ニュースにしても、バラエティにしても、放送がみなさんの生活の一部であるといいなと思います。
喜ばしい出来事も、悲しい事件・事故も、美味しいグルメ情報も、後世に残したい伝統や文化も、それを番組にして、みなさんの心に残す、そして、映像・音声として残すことが仕事です。
そして、災害など有事の際には情報源として機能するために日々の備えを欠かさないことも社会貢献だと思っています。

これからどういうキャリアを描きますか?

私が勤める放送局は、テレビ・ラジオはもちろん、イベント事業も盛んです。
せっかく、それだけいろんな仕事があるのだから、いろんなものに挑戦したいです。
それは人生は一度しかないのだから、自分のために経験したいというのがひとつ。
もうひとつは、私も30代になり、「先輩」と呼ばれることも多くなりました。
その後輩たちから「今度こんな仕事があるんですけど、福居さんならどうしますか」と聞かれたときに、「私はやったことないから・・・」となりたくないのです。
たくさんの先輩たちが相談にのってくださり、そのアドバイスのおかげで、今、何とか仕事ができています。私もいつか頼れる先輩になれるよう、いろんな経験をしたいです。
私生活では、子どもを産み、家庭をもつのが夢です。
ママになると、世の中のいろんなものが違った視点で見えてくると聞きます。
ニュースも同じで、ママ目線で伝えることもとても大切なことだと思うのです。
(実際、夕方のニュース番組は、おそらく多くのママたちにこそ見ていただいているのですから)

アナウンサーを目指す高校生へのメッセージ

いま、放送局の仕事、あるいはアナウンサーという職業に興味を持っているみなさんへ。
国語・数学・理科・社会・外国語・・・アナウンサーには関係ない、と思いますか?
そりゃあ、アナウンサーだからといって、センター試験の点数が公表されるわけではないですし、ニュース原稿には「サイン・コサイン・タンジェント」なんて滅多なことでもない限り出てきません。
「この漢文を現代の日本語に訳して、伝えろ」なんて“ムチャぶり”されることもないでしょう。
原稿に書いてあるのは「ただの日本語」です。今あなたに渡しても、すぐに読めます。
ところが、ただの日本語で、誰にでも読めるからこそ、“分かっていない・知らない”ことがすぐにバレてしまいます。
これはかつて私自身が上司に言われた言葉ですが、「君が思っているほど視聴者はバカじゃない」のです。
全ての教科で100点を目指せ、とは言いません。難関大学に進むべし、とも言いません。ただ、少なくとも、机を並べて勉強している友人たちと同じように、目の前の学問にしっかり向き合ってください。
アナウンス技術でいうと、今のうちから何かするべき、ということは特にないと思います。
私自身、放送部に入っていたわけではありませんし、アナウンススクールにも通った経験はありません。・・・それでも!何かアナウンサーらしいこと言ってよ!といわれそうなので、ふたつ。
ひとつは、正しい日本語を身につけましょう。
「私、ニンジン苦手で食べれないの 」
まちがいです。・・・何がおかしいか、わかりました?
「食べれない」ではありません、「食べ ら れない」です。俗に言う“ら抜き言葉”ですね。
これが癖になってしまって、矯正するのに苦労する・・・という人もいます。
ほかにも、敬語・謙譲語や変則的な漢字の読み方など、日本語って意外と難しい!日常的に使っている言語だからこそ、間違いに気づきにくいものです。
それから、とにかくたくさんテレビやラジオを見て、聴いてみるのはどうでしょうか。
「私が声に出して読むのと、このアナウンサーが伝えるのとではどうしてこんなにちがうの?」
「いま、どうしてこの言葉だけを強調したの?」
「このコメントって、原稿なのかしら、それともアドリブかしら?」
そんな目線でアナウンサーを観察すると、おもしろいです。
これも私自身が上司に言われた言葉ですが、
「上手くなりたいなら、まずお手本となるアナウンサーを見つけて、真似することから始めなさい」です!

私の人生を変えた衝撃的な出会いや出来事

最初の上司との出会い

アナウンサーとして、取材者として、放送局の一員として、働く上での私の考え方の基礎はここにあります。
「パッション(情熱)が大事」
「失敗のない放送を目指すな、より魅力的な放送になるよう努力しなさい」
「ジャンジャン出かけなさい」
「やりたいことがあるならとりあえず言いなさい。すぐに叶うかは別として、きっとチャンスにつながるから」
発声やアクセントなどの指導よりも、こうした言葉をたくさんもらいました。

とある先輩アナウンサー

そのひとは、他の都市から転勤してきた人でした。
出身地でもなければ、縁もない、初めての土地でローカル放送に携わるのは、結構、大変なんです。
その先輩が素敵なのは、休日を使って県内各地を周り、遊び、美味しいものを食べ、歴史や文化を体験することに労力を惜しまないところでした。
それをブログで報告する姿に、「この人は本当にここでの暮らしを楽しんでいるなぁ」「この土地を愛そうとしてくれている」と、きっと視聴者も感じたはずです。
素敵な声、正確で聞きやすいニュース読み、幅広いナレーション・・・技術を真似したいアナウンサーは何人もいます。
けれど、地域放送で大切なのは、その土地をいかに知ろうと努力するか、愛せるか。アナウンサーとして県民に親しみをもってもらえるかどうかも、そういうところにあるのではないかと感じました。
ちなみに、この先輩はアナウンス技術もべらぼうに素晴らしく、何においても「こんなアナウンサーになりたい!」と目標にしている人です。

熊本地震

熊本は家族旅行などで何度も訪れていた、大好きな場所でした。
特に阿蘇は何回訪れても飽きることがなく、なぜ、故郷でもない、住んだこともないこの景色にこれほど感動するんだろうと、不思議に思っていたほどです。
地震当時、私は福岡で暮らしていましたが、変わってしまった姿がとてもショックでした。
それまでの私は長崎と福岡でしか暮らしたことがなく、取材対象としての興味もこのふたつの街だけに向いていたのですが、初めて、縁のない土地で働きたい、取材したい、と思いました。
いま、私が熊本でお伝えしているニュースは地震と関係ないものももちろん多いです。けれど、あの日から◯年、◯か月という時の流れを、ふとしたときに感じたり、突きつけられたりします。
「地震」はその瞬間の出来事だけれど、「震災」はその後もずっと続く悲しさや不便さなのだと、熊本に来て教わりました。